選択の科学/シーナ・アイエンガー

この本には、その人が属している文化や、情報の提示のされ方などが選択に与える影響や、どのような条件で選択を行うと満足度が高いかなど、著者が研究してきた内容について書かれている。

毎回は難しいだろうけど、どういうものが判断を歪めることがあるか知っていれば、重要な選択をするときには色々な角度からよく考えて、自分が望まない考えに引っ張られていることに気付けるかもしれない。

それから、何でも自分で選べた方がいいんじゃないかと思っていたけど、そうでない場合もあるということについて。残酷な選択をしなければならない場合とか。

そういう時は人に任せたほうが、ダメージが少なく済んで良いかもしれない、ということも覚えておこう。

 

選択の科学

選択の科学

 

 

檻のなかの子/トリイ・ヘイデン

この本の著者であるトリイ・ヘイデンさんは、心理的・器質的に問題のある子供たちの手助けをしている人である。

(以前は教職に就いていたようだけど、この本の頃には、カウンセラーとかセラピストのような仕事をしている模様。職種が何なのかはよく分からない。)

この本には、トリイさんと、彼女が面倒を見ることになった、8年間誰とも口をきかなかった少年との出来事について書かれている。

 

このシリーズは他にもいくつか読んだことがあるのだけど、何故かいつものめり込んでしまう。

トリイさんは、こんな大変な仕事をしているのにそこら辺にいそうな感じの人で、私から見るとすごくどうでもいいことでうだうだ言っているようなこともある。

けれど、仕事に関する悩みや問題への向き合い方は共感するところがあるし、彼女が相手をする人達が、良くなったり悪くなったりするのを読んで嬉しくなったりがっかりしたりする。

そういうところがこのシリーズの魅力なんだろうと思う。

 

このシリーズに登場する人達は、世の中で色々な問題を抱えている人達のほんの一部だし、そのほんの一部の彼らも、救われるとは限らない。

この本の最後も一応はハッピーエンドだけれど、彼がその後の人生もうまくやって行けたかどうかは分からない。

言ってしまえば焼け石に水のように思ってしまう。

トリイさんもそれが分かっているし何度も絶望するけれど、それでも何度も立ち向かう。

きっと使命感とか正義感ではなく、本人も言っているけれどこの仕事に魅せられているということなんだろうと思う。

大変さとやりがいを天秤にかけてやりがいを選んでしまう気持ちも、分からなくはないよ。

 

檻のなかの子―憎悪にとらわれた少年の物語 (トリイ・ヘイデン文庫)

檻のなかの子―憎悪にとらわれた少年の物語 (トリイ・ヘイデン文庫)

 

 

国家の罠/佐藤優

鈴木宗男事件の当時、外務省に勤めていた佐藤優氏が、外務省の金を不正に使用したことや、北方領土へのディーゼル発電事業で自身の利益になるよう、特定の業者が工事を受注できるようにしたなどの疑いで、逮捕された時の話。

検察側は事件としてストーリーを作りたいので、ある程度罪を認めて折り合いを付ければそこそこで解放されるのだけど、この方が価値を置いたのは国益やこれまでやってきたことに対する筋を通すことだったので、無罪を主張し続けた。

 

情報のプロである佐藤氏と、取り調べを担当した西村検事とのやりとりが見どころ。

佐藤氏は冷静に状況を観察・分析して、自身の守るべきものを守るための出方を探る。

西村検事は、検事としての責務をきちんとこなしながらも、佐藤氏の意志を尊重している。

お互いの立場上相容れない部分がありながら、段々と戦友みたいになっていくのが面白い。

それよりなによりこの二人、会話が始まると大体イチャイチャし出しすのでニヤニヤしながら読んだ。

 

本の裏表紙などに情報のプロと書いてあったので上でそう書いたけど、佐藤氏は、相手がどういう人間であるかを理解すること、そしてそれをもとに相手にどうアプローチするかということにかけて、プロなんだなあ。

国も人種も違う人達を相手にするには、こういう能力が必要なんだろうな。

(外交に携わる人、誰もが同じようにできるのか分からないけど。)

そして昼も夜もない激務なので、能力的にも体力的にも、とても自分には務まらない仕事だ。

佐藤氏が、刑務所に入ってゆっくりできて良かったと言うのも納得できる。

 

あと、刑務所のご飯は美味しそうである。

特にお正月のご飯、私そんなに食べられない。どうしよう。

 

とても面白かったので、この方の他の本も読んでみたい。

 

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

 

 

キャパになれなかったカメラマン(上)/平敷安常

平敷安常さんが、主にベトナム戦争での取材の様子や、そこで出会った記者やカメラマンについて語った本。

ベトナム戦争について知りたくて読んでみたのだけど、そもそもそれを紹介することはこの本の趣旨ではないので、そういうことはあまり書かれていない。

でも予想以上に面白かった。

 

記者とカメラマンがチームを組んで戦場などに出かけて行き、取材をするらしい。

ストーリーを作るのは記者で、記者がカメラマンに撮ってほしいものを指示することもあるけれど、呼吸が合ってくるとカメラマンは記者が求めるものが分かってきて、記者も何も言わなくなるのだそうな。

長いこと同じ人と組んでいる人もいればそうでない人もいる。

平敷さんはずっと後者のやり方で仕事を続けていて、色々な人と組んでいる。

相当タフじゃないとできないけど面白そうな仕事だ。

 

ベトナム戦争には直接関わっていない日本の記者やカメラマンが、思ったより沢山ベトナムに行っていたことに(そして何人かは亡くなっていることにも)少し驚いた。

 

多くの人から褒められる映像って何だろうなあ。

見たことのないもの、めったに撮れないもの、衝撃的なもの、美しいものを見ると感動するけれど、そういうことではないのかな。

 

 

告白/井口俊英

大和銀行ニューヨーク支店に勤めていた著者は、取引によって多額の損失を出したが、それを12年間隠し続けた。

タイミングを見計らって銀行に告白状を出し、逮捕された後、関係者やメディアの事件に対する言い分が不正確だ、ということで、獄中で書いたのがこの本。

 

この方、他人についても自分についても、人の心理をよく把握している。

多少は誰かが手直しなどしているのかもしれないけど、文章の所々の言い回しも上手だし、頭の良い人なんだろうなあ。

面白かった。

 

告白 (文春文庫)

告白 (文春文庫)

 

 

愛はなぜ終わるのか/ヘレン・E・フィッシャー

浮気や離婚を生物の進化の過程から説明した本。

人間の祖先の骨や使っていたと思われる道具から、彼らがどんな風に生きていたかを想像するって、ちょっと楽しそうだなあ。

 

男女は自然にパートナーを組む

男女の集団内でパートナーをシェアしても良いことになっていても、大半は特定の人とだけパートナーになる。

どの文化でもそういう傾向が強いとのこと。

太古の昔、一夫一婦制は、男性の立場では自分の子孫をきちんと育ててもらうということ、女性の立場では安全に子育てできるということから、繁殖の戦略として効率が良かった。

それが遺伝子に刻み込まれているということらしい。

なので、今みたいに女性が経済力を持つと離婚が増えるのだとか。

「必要」でないなら、他に一緒にいる意味がないとな。

まあ、そういうことも、あるわねえ・・・。

 

浮気の目的

男性の場合は、生物として子孫をより多く残すためということはよく聞くけれど、女性の場合は、子育てに有利なサービスを受けるため、という目的があったらしい。

食べ物がもらえるとか。

これは現在私たちが暮している社会ではあまり当てはまらないかなあ。

子育てのための経済的な援助を受けるために浮気をする女性の例はあまり聞かない。

 

離婚のピークは結婚から4年

これは多くの種の子育てが終わる時期と一致するらしい。

恋愛感情的なものが長続きしないのも同じ話。

身も蓋もないな。

 

人間の子供時代は長い

人間は進化と共に脳が大きくなり、頭が大きくなりすぎると産道を抜けられなくなるので、他の霊長類より未熟な状態で生まれてくる。

だからより一層安定した配偶関係が必要で、一夫一婦制が適しているんだと。

そして、成熟するまでの期間が他の霊長類に比べてほぼ2倍長い。

これは複雑な世界を学ぶための期間とこの本では言っている。

賢くなった分、やらなきゃいけないことが増えたということなんだねぇ。

 

女性が男性より劣ると見なされるようになった理由

それは鋤!鍬!えーっそんなもので何故。ところで鋤ってどんな道具だっけ。

この本の中で一番驚いたかもしれない。そして理由を聞いてなるほどと思った。

(社会科の授業で鋤が出てきたときに、こういう話があったかも?覚えていない。)

鋤や鍬は扱うのに力がいるので、力のある男性が有利ということらしい。

今だと、誰が稼いだ金で暮らしていると思ってんだーっていうやつか。

生計を立てている人が偉いということね。確かにそれがなければ生きていけないけれども。

 

愛はなぜ終わるのか―結婚・不倫・離婚の自然史

愛はなぜ終わるのか―結婚・不倫・離婚の自然史

 

 

老兵は死なず/野中広務

野中広務さんが政治家としてどんな活動をしてきたかを語った本。

 

とても堂々と言えたものではないけど、政治に疎いため、その手の話を聞いてもいまいち何を意味しているか分からないことが多い。

知ればもっと面白いだろうと思って読んでみた。

(もちろんこの本はそういう説明が書かれた本ではないけれども。)

野中さんのことは、名前は聞いたことがあるけれどどんな人かは答えられません、という程度の前提知識で読んだ。

それでも読んでみると、世の中で起こった出来事について、そんなことがあったなあと思うくらいには覚えているし、大抵の登場人物の名前くらいは聞いたことがあり、色々なドラマがあって面白かった。

この本に登場する人物達がまさに活躍している頃に読んだら、もっと面白かっただろうに。

 

政治家の人達は、大抵の人が、世の中を良くしたいという強い意志を持っているものなのなんだろうなあ。

テレビに出ているあの人達も、一生懸命選挙活動している人達も。

自分は政治家になりたいなんて全く考えたこともないので、どんな気持ちかあまり想像がつかない。

政治がよく分からないから余計に想像がしづらいのだろうなあ。

 

老兵は死なず―野中広務全回顧録 (文春文庫)

老兵は死なず―野中広務全回顧録 (文春文庫)