永遠の旅行者(上)(下)/橘玲

タイトルとなっている「永遠の旅行者」について、本文に入る前に説明があり、どの国の居住者にもならず、合法的にいっさいの納税義務から解放された人々のことだそうな。

一般的にはPT(Perpetual Traveler)と呼ばれるのかな。私は全く聞いたことがなかったけど。

主人公が元弁護士のPTで、ある人から莫大な遺産を、税金を一切払わずに孫に相続したいと相談される、というお話。

 

最後の辺りの長井の件はちょっと変な話になってしまった感があるけど、まゆがやったんじゃなくてよかった。事件の状況を聞いて以降、私はずっとまゆがやったんだと思っていて、そこは覆らないと思っていた。

悠介は娘がやったと思ったまま死んでしまって気の毒だけど。

 

PTいいなあ。能力のある人はこういう自由な生き方が選べるんだよね。

 

永遠の旅行者 (上)

永遠の旅行者 (上)

 
永遠の旅行者 (下)

永遠の旅行者 (下)

 

 

組織の掟/佐藤優

組織に属さないで仕事をしたいと思って今に至るけど、結局組織から逃れられず、組織とは何だと思う今日この頃。というわけで、この本を読んでみた。

組織から完全に自由になることが難しいのは分かっているし、この本はそういう方法が書いてあるわけではないけど、ああ~、そうそう!と思うところが多くて面白かった。

 

インテリジェンス業界の職業適性

モサド(イスラエル諜報特務庁)の諜報工作員だった人が考案したという、インテリジェンス業界の適正判定テストが紹介されていて、判定の結果「利己的なサメ」「バネが伸び切っていないタフガイ」「慣習に従う一般層」「無害な弱虫」「高潔すぎる正義感」に分類される。

私は「慣習に従う一般層」だった。

大多数がこのカテゴリーに属するそうで、まあ私も普通の人ということでよかった。

 

問題のある人を排除する

組織全体の目配りは、民間企業ならば事業本部長や取締役、中央官庁ならば官房長以上の幹部の役割だ。あなたが中間管理職なら、自分の部署をいかに守るかだけ考えておけばいい。

上司も部下もその認識でいないと、何とかしろって言われてしまうんだけどねえ。私の仕事じゃない!って突っぱねてみてもいいのかもしれない。

組織の仕事は、「足し算」ではなく「掛け算」で行われることが多いと認識している。他の部下がいかに努力して成果を上げても、「×0」をする人間が一人でもいると、全体の結果もゼロになってしまう。

 これについては「足し算」で、ゼロではなくマイナスをする人がいると思う。

 

頭のいい人のなかには癖の強い人も多い

総括公使とは、大使館の次席公使の次のランクであり、大使館のナンバー3にあたる。

当時の総括公使は驚くとオネエ言葉になる人だった。彼は自分の遺伝子をできるだけ多方面に残すという本能によって動いているような人なので、トラブルに遭遇することも多いのであるが、それを上手に切り抜ける知恵がある。

 オネエ言葉なのに頼りになるって素敵だ(笑)。他にも、後輩を○○氏と呼ぶ人とか、別の本に書いてあった話だけど気に食わないことがあるとそこら辺にウ○コする人とか、頭のいい人のなかには、癖の強い人が多い。

優秀だから、人にもまれて自分をかえりみることがないのかもしれない。オネエ言葉や○○氏呼びは何も害がないからいいと思うけど。

 

本業以外が組織を出てから役に立つ

その通りだと思うけど、凡人はなかなか、本業以外でいざという時に仕事にもなるような能力を身に着けるのは、難しいと思うんだよねえ。

 

組織の掟 (新潮新書)

組織の掟 (新潮新書)

 

 

ヴィーナスという子/トリイ・ヘイデン

トリイさんのノンフィクションはこれで全部読んだはず。

 

子供たちが良くなるなんて最初は全く思えなかった。徐々に改善していく様子を見ると、こちらまで嬉しくなってしまった。

まともな社会生活を送れるようになるとはとても思えなかったのに、まさか大学に通えるようになったり、働けるようになったなんて。

 

とても難しい仕事だと思う。時間さえかければ何とかなるわけではない。正解がない。

この仕事を頑張れるのはトリイさんの天職ということなんだろう。同僚の女性にも言われていたけど、世の中の多くの人はなかなかそういう仕事には巡り合えない。

 

救えなかった子も沢山いたと書いてあった。そりゃあそうだろう。本に書かれているのはうまく行ったほんの一例かもしれない。

でも今回はあの状況から巻き返すことができた。奇跡みたいだ。こんな奇跡が起こせるのなら、大変でもハマってしまうかもしれない。

 

ヴィーナスという子―存在を忘れられた少女の物語

ヴィーナスという子―存在を忘れられた少女の物語

 

 

嫉妬と自己愛/佐藤優

何だか最近、以前だったら「それって自分勝手じゃないの?」と思うようなことをよく考えていて、最近自己愛が強いのかしらと思ってこの本を読んでみた。

ちょっとその答えが得られるような内容ではなかったけど、小説の内容や佐藤さんの体験を絡めた嫉妬と自己愛の解説が面白かった。

 

何でも話せる友達がいない人は健全な人間関係の構築ができていない人だ、というようなことが書いてあったのだけど、何でも話せる友達を持っている人なんて少数なんじゃないのかな。少数は言いすぎだとしても、いる人といない人でせいぜい半々くらいとか。半々というのも適当だけども。

私は、例えとても気に入った相手でも、何でも話したいとは思わない気がするなあ。何でも話したいと思うかどうかは、性格の問題かもしれない。それから私の場合、傷つきたくないから何でも話したいと思わないのかもしれない。つまりこの本で言っている自己愛による結果かも。

 

この本で紹介されていた、夏目漱石の「それから」がちょっと面白そう。青空文庫にあるだろうから、気が向いたら読んでみよう。

けど話を聞く限り、「こころ」とよく似たような話みたいだなあ。夏目漱石はああいう話が好きなんだろうか。私は夏目漱石の書いたものは「こころ」くらいしかまともに読んだことがないのだけど。

 

 

プラハの憂鬱/佐藤優

佐藤さんが外務省のロシア語研修のためイギリスで過ごしていた頃のお話。

チェコ神学者に関する本を求めていたところ、チェコから亡命してきた本屋の店主と出会う。

 

神学の話やら、チェコやその周辺の国々のことなど、佐藤さんの本を読むまでは殆ど考えたことがなかったので、所々でへーと思いつつもぴんとこない。

面白いのだけど、そういう点でなかなかのめり込む感じにはなれない。

 

人それぞれ使命みたいなものがあるという考えは、私は思ったことがないけれど、そういう考えを持って生きている人もいるらしい。

使命というと大げさだけど、ライフワークと言われればもう少し身近かもしれない。ライフワークなんてものが見つけられたら、人生が楽しくなりそうだ。

 

個人の力ではどうにもならないことって多いよね当然だけど。力が大きくて抵抗できないようなものから、気付いたら流れでそうなってしまったようなことまで。でもきっと誰でも、いつもいつも自分で道を選んでいるわけではなくて、流されている部分が多いんだろうな。

 

プラハの憂鬱

プラハの憂鬱

 

 

霧のなかの子/トリイ・ヘイデン

トリイさんが書いたノンフィクションの本は全部読んだかと思っていたけど、この本と、他にもう一冊「ヴィーナスという子」を読んでいなかったので、いずれ読もう。

相変わらず面白くて、あっという間に読んでしまった。

以前も書いたかもしれないけれど、私がこの方の本を読んで面白いと思う理由は、この本に書かれている出来事に興味があるからと言うよりは、この方が考えたこと、思ったことについての説明が興味深いからだと思う。それから、表現の上手さもあるかもしれない。

例えば冒頭の、カサンドラに初めて会った時のこと。

わたしはそこに妖精のような耳が見えるのではとなかば期待してしまった。

 一言「妖精みたいな子だと思った」と書かれては惹きつけられない。

きっとトリイさんは実際に上記のように思ったんだろう。人と言葉を専門とする仕事をしているだけあって、自身の内面を言語化することに長けているということなんだろうな。

霧のなかの子

霧のなかの子

 

絶望の裁判所/瀬木比呂志

元裁判官が語る、裁判所は腐っているよ、尋常じゃない裁判官が沢山いるよ、というお話。

聞くところによると検察やら外務省やらも腐っているという話だし、私の狭い観測範囲を見ても、エリートの中にはびっくりするようなヤバい人が混じっているし、組織というものはどこでも腐るってことなんだろうと思う。

 

瀬木さんは、特に裁判官の中に精神的に未熟な人が多い原因として、日本のキャリアシステムに問題があると言っている。学生がすぐに裁判官になってしまい、以降は閉鎖的な裁判所の中でしか過ごさないので、欠点が矯正される機会がなく、それどころか増幅されていってしまうと。

でもそういうシステムを変えようとしても、既得権益を持った人たちが現状を死守しようとするのでどうしようもない。

私たちは、とにかく事件や事故には極力あわないようにと祈るしかないな。

 

それにしても、瀬木さんの例えが面白い。顔色を窺って同じ方向ばかり見ている様子を「ヒラメのよう」と言ったり、最も多い裁判官のタイプを、トルストイの小説の主人公イヴァン・イリイチに似ているということで「イヴァン・イリイチタイプ」と言ったり。

機会があったら瀬木さんの他の本も読んでみよう。

 

絶望の裁判所 (講談社現代新書)

絶望の裁判所 (講談社現代新書)