サイロ・エフェクト/ジリアン・テット

サイロとはトウモロコシなどを保存する大きな、多分円柱状のあれ。頭には何となくイメージが浮かぶけど、日本ではあまりなじみのない言葉だと思う。

この本では、組織内の各部門がサイロのように背の高い壁で区切られ、情報共有ができていない状態をサイロと呼ぶ。

大きなものを大きなままにしておいては制御できないので、分割するのは必要なことだけれど、徐々に各部門が、組織全体の利益ではなく各部門の利益を優先するようになり、部門間で情報を共有しなくなってしまう。

この本には、そうして衰退していった組織や、サイロを壊そうとした組織、サイロを作らないように努力している組織の例が挙げられている。

ちなみにソニーはサイロにより衰退した企業の例として挙げられている。

 

著者は元々文化人類学者で、文化人類学とは文化的側面から人々を分類する学問なのだそうな。

何故文化人類学の視点がサイロの研究に役立つのかというと、サイロは正式に定義されたルールなどから発生するのではなく、しきたりや慣習など文化によって発生するものだから。皆何となく「そういうもの」だと思っているうちに、自然とサイロが築かれてしまう。

 

サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠

サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠

 

 

オタクの息子に悩んでます/岡田斗司夫

岡田斗司夫さんが朝日新聞の悩み相談に回答する際、どのように回答を考えたかを書いたのが本書。

私は 岡田さんのことを「岡田斗司夫ゼミ」の動画を見て知ったのだけど、しばしば私には思いつかないような発想をされる方で、この本に書かれている悩みの回答も、スゲーと思うような回答やら笑ってしまう回答がちらほら。

最初に考えた回答の方向性が「面白い回答をしたい」とか「自分の独自性を出したい」とのことで、なるほど、そういうところを目指していらっしゃるからその通りになってるのか。

でも、こうして文章で読むのもいいけど、話しているのを聞く方がもっと良い。岡田さんは時々あはははは!って笑いながらすごく楽しそうに話すので。

それから私が質問者だったら、解決策よりも、この本に書いてあるような分析の方が聞きたい。悩みの本質が何なのかということを知ったほうが気が晴れる気がする。限られた文字数で回答をするから、解決策を優先せざるを得ないのだろうけど。

オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より (幻冬舎新書)

オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より (幻冬舎新書)

 

 

死ねばいいのに/京極夏彦

突然見知らぬ人が訪ねてきて、亡くなった、しかも殺された人のことを尋ねられたらペラペラ話す気にはならないだろう。しかも訪ねてきた相手は失礼だ。本人は「ものを知らないから態度が悪かったら謝る」と言うのでそこは何とか汲もうとはするけど、快く話す気になんてなれない。挙句の果てに死ねばいいと言われるなんて、ないわ。

訪ねてこられた人達は、何かしら良くない点はあるにしても、それなりに頑張って生きている人達だ。できないんじゃなくてやらないだけだとか、それが簡単にできないから皆苦しむ。正論かもしれないけどコイツに説教されたくはない。

態度は悪いし仕事はすぐクビになる、端的に言ってどうしようもないケンヤが正しいことを言って、相手が言い負かされたかのように話が進むけれど、ケンヤはやっぱり変な奴だったのか。私には理解しづらい。そんな理由で、人を。

自分のことばかり話すのも、不幸だ不幸だと言いながら、死ねばと言われたら死にたくないと言うのも、それが普通の人だと確認していたのか。

 

死ねばいいのに

死ねばいいのに

 

 

絶望ノート/歌野晶午

皆自分勝手なんだよ。でもそれは仕方がないことでもあって、ただ責めることもできない。誰も悪くない。皆悪い。

 

絶望ノート

絶望ノート

 

 

無名/沢木耕太郎

この本は著者のお父さんが入院してから亡くなるまでの出来事について書かれている。

著者の沢木さんは主にノンフィクションの作品を書く作家さんらしいのだけど、私は沢木さんが作家であることを知らずに読み始めた。

機会があったらこの方の他の本も読んでみようかな。

 

沢木さんがお父さんと会話をするとき敬語で話していたので、何だろうと思った。二人のお姉さんがお父さんと話すときは敬語ではないのに。実は特別な関係だという話がそのうち明かされるのかと思ったが、そうでもなかった。そういう親子もあるらしい。

 

沢木さんは子供の頃全然勉強をしなかったけど国立大学に行ったと書いてあった。著者紹介の記述を見たら横浜国立大じゃないか。

勉強しなかったけど誰も文句を言わなかったようなことを言っているけど、横国に受かるなら誰も文句は言わないでしょうよ。

 

私は人が亡くなるまでの色々な大変なことをまだ経験していない。でもいずれは経験するはずなので、気にかかってはいる。具体的に何かしてはいないけど。

多分この本に書かれているのは、割と本人も周りの人も楽だったケースなのではと思ったのだけど、もしかして大変だという話の方がまれなケースで、大半の人はそこまで苦労しないのだろうか。

 

無名

無名

 

 

トーマの心臓/森博嗣

原作は漫画で、タイトルは知っていたけど読んだことはない。

トーマは何故死んだのか、ユーリの様子がおかしくなったのは何故なのか。語り手のオスカーはいい奴な上に、色々と複雑な事情を抱えていて続きが気になったので、面白いと思って一気に読んだ。

それにしても、トーマが死んだ理由が分からないまま終わってしまうとは。タイトルの「トーマの心臓」とは何だったのか。まあ、タイトルが一番重要な点を表すとは限らないけど。

原因はユーリが暴行?されたことにある、ということまでは分かるけど、それで何でトーマが死ぬことに?ユーリの件よりも大きな事件を起こすことで、ユーリの件をから皆の目を逸らすため?命懸けたんだからユーリの件には触れるなという脅し?それとも抗議?

何にせよトーマが死ぬ理由としては薄いと私は思うけど、まあそういうことなんだろうねえ。

もしかして原作と違う(改変されている or 省略されている)のかなと思って調べてみたけど、よく分からなかった。

 

 

セラピスト/最相葉月

著者が受けたカウンセリングの様子と、日本でカウンセリングがどのように広まっていったかや、いくつかの患者の症例などが交互に語られている。

著者のカウンセリングは取材のためという体で始まるけれど、実は・・・。

 

30代半ばで失明した女性が、歩くのが怖くて杖を前の方に出して歩いていたら、人を転ばせてしまってビンタされたという話がつらい。

失明と同時に結婚相手に離縁され、ほぼ同時期に母親ががんで亡くなり、死んでしまいたくなったけど、父親を残して死ねなかったそうだ。

そんなこんなで心を病んでしまって・・・。

この方の心は回復したけれど、世の中にどうにもならないことは沢山あって・・・どうにもらないんだよなあ。

 

セラピスト

セラピスト