死体格差/西尾元

 解剖が必要とされるのは、穏やかな死を迎えられなかった人の遺体だ。著者の西尾さんが解剖してきた人達の約50%が独居者であり、約20%が生活保護受給者、約30%が精神疾患患者だそうだ。

日本では生活に困ったら生活保護を受ければよいという話を聞くことがあるけれど、生活に困らない程度の施しが受けられるはずなのに凍死する人がいるなどという話を聞くと、本当にまともに暮らせるのだろうかと心配になる。

そして、1人で暮らしていると、突然倒れた時に助かりにくいと考えると怖くなる。まあ、自分で選んでいることでもあるし、同居人がいても死ぬときは死ぬので、考えてもきりがないのだけど。

死体格差 解剖台の上の「声なき声」より

死体格差 解剖台の上の「声なき声」より

 

 

熊と踊れ/アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ

この小説は、スウェーデンで実際に起こった事件が元になっているそうだ。タイトルの「熊と踊れ」は、主人公のレオが、自分より強い相手に勝つ方法を父親から教わった時に、父親が言っていた言葉だ。この父親は暴力的な人間で、ある時妻を半殺しにしてしまったため、家族はバラバラになってしまった。その辺りは昔の話として語られており、この小説の現在の時間軸では、その後成長したレオが、二人の弟と幼馴染とで武器庫から武器を盗み出し、銀行強盗をする。レオはとても頭の切れる奴で、冷静に綿密な計画を立て、うまくメンバーをまとめ、強盗を繰り返す。

この小説が実話を元にしていて詳細が語られているということは、レオはミスをして捕まったということだ。せっかくうまくやってきたのに、嫌っている父親に関することでは、レオは筋の通らない行動をしてしまう。

 

レオの父親であるイヴァンは、この小説に書かれている内容だけ見ると、悪人というよりは、性格に難ありで不器用な人だという印象を持った。(妻の実家に放火したり、妻を半殺しにしたりする人は、関係者からしたら十分に悪だろうけど、悪意による行動というよりは、考え方に問題があるいうか。そういう人が厄介なことに変わりはないのだけど。)

レオとその弟達はこの暴力的な父親のことを嫌っているけれど、彼らも父親と同等、あるいはそれ以上の暴力を用いて、自分達の都合を通そうとした。銃を向けられた人たちの中には、ショックで寝込んでしまうなど、その後の人生が滅茶苦茶になってしまう人も多いのだそうだ。

 

 

 

DUTY/ボブ・グリーン

広島に原爆を落とした飛行機エノラ・ゲイ。そのパイロットであるポール・ティベッツへのインタビューを通して、著者は、ティベッツと同年代の生まれで、ティベッツと同じく第二次世界大戦を生き残った父親の生き方を理解していく。

 

親と同年代の人と仲良くなる機会は、普通に生活しているとなかなかない。この不思議な関係は少し羨ましい。自分の親がどういうことを考えて生きてきたかということを、一緒に暮らしていたことがあるのに実はあまり知らない。親子って、腹を割って話すような機会がない。  

 

 

がんと闘う・がんから学ぶ・がんと生きる/中島みち

この本は元々3冊に分かれていた本を1冊にまとめたもので、(1)著者の中島みちさん自身が乳癌になった時の話、 (2)末期の癌になり亡くなってゆく女性と、その友人の女性(癌になったがその後再発はしていない)の話、(3)中島さんの旦那さんがある日突然末期の肺がんであることが分かり、亡くなるまでの数か月の話 で構成されている。

 

この本に書かれている出来事が起こったのは今から40年ほども前のことで、今でも同じような状況なのかどうか分からないけど、癌になるということがこんなに大変なことだとは。

命に関わることなのだから大変なのは当たり前だし、症状も人それぞれだろうけど、患者の苦しみ、家族や医師の苦悩は想像以上に大変そうだなという印象を持った。

 

(2)(3)の話では、本人に真実は告げられていない。それで、真実を知っている周りの人がとても苦しむ。本人への告知は、しないことが多いんだろうか。自分が癌になったら本当のことを知りたいと思うけど、元気な時はそう思っても、やはりいざという時には知らない方が良かったりするのだろうか。

がんと闘う・がんから学ぶ・がんと生きる (文春文庫)

がんと闘う・がんから学ぶ・がんと生きる (文春文庫)

 

 

検屍官/パトリシア・コーンウェル

この本の中で、犯人がどうやって獲物を探したかを推理している時に、花を届ける仕事なら不特定多数の女性と接触できると言っていた。

宅配便の荷物を受け取ってサインする時、実はいつも、もしこの人が悪い人で、このまま家の中に押し込まれたら終わりだなと思っている。もっとサッと済ませるように、シャチハタでも用意しておいた方がいいかもしれない。

 

講談社文庫で読んだのだけど、この表紙じゃなかったなあ。

検屍官 (講談社文庫)

検屍官 (講談社文庫)

 

 

フェアトレードのおかしな真実/コナー・ウッドマン

緑色のカエルのマーク、フェアトレードと書いてあっても、どれほどの意味があるのだろうと正直思う。 実際、あのマークがついているものの原材料などの取引において、最低価格は保証されているけれど、そもそも最低価格を下回ることがなく、フェアトレードに関心を持っている企業であるという宣伝のような役割になってしまっていることもあるらしい。フェアトレードを謳っていないものの方が、適正な価格で取引をしていることもあるようだ。まあ、そんなものだよねえ。

 

危険な労働環境であっても受け入れざるを得ない人々、世の中によくないものであってもそれを売ることでしか生きていけない人々がいる。私達はそうやって作られたものをよく知らないまま利用して、平和に暮らしている。急速に便利になったのは一部の場所だけで、何年も昔のまま取り残されている場所がある。

 

「生きる」という権利/安田好弘

弁護士である著者の安田さんが携わったいくつかの事件について書かれた本。

特に大変だった事件を選んで書いてあるからなのか、色々とつらい。こんなに頑張っても、ままならないことばかりなのかと思う。

弁護士という仕事の難しさは、法律の知識がどうとか頭が良くなければとかいったことよりも、最も重要な点は人間を相手にする仕事だということだと思う。こんなに神経をすり減らすような仕事は、誰にでもできることではない。

 

計画的な犯行というものはかなり少なく、色々な悪い条件が重なって事件に至ってしまうことが多い、という言葉が印象に残った。 大抵の人は事件を起こしたことを申し訳なく思っていて、詳細を思い出すのもつらいので、「こういう段取りでやったんだろう」と言われると、間違っていてもそうだと言ってしまうことが多々あるらしい。

「生きる」という権利―麻原彰晃主任弁護人の手記

「生きる」という権利―麻原彰晃主任弁護人の手記