黒い太陽/新堂冬樹

寝たきりの父親のために金を稼ぎたい立花君が、風俗業界で頑張るお話。

誰が一番優秀か、誰をどのポジションに持ってくるのが一番得策か、誰が一番上の人に目をかけられているか、・・・って、これどこの業界でも一緒だな。何だかうんざりしてしまうな。

黒い太陽(上) (祥伝社文庫)

黒い太陽(上) (祥伝社文庫)

 

 

モンローが死んだ日/小池真理子

夫に先立たれて以来一人暮らしの鏡子は、ある時精神的な不調を覚え、精神科に通うことになるが、高橋医師の治療により体調はあっという間に改善した。その後鏡子と高橋医師は個人的な交流を持つようになるが、ある日突然高橋医師との連絡がつかなくなる。

 

それまでやり取りしていた相手と突然連絡がつかなくなったら、最初はもちろん心配するけれど、ああこれは相手が関係を断ち切ったんだなと分かる。そんなやり方はあまりにも不誠実で腹が立つ。そういう事態になった理由は後で分かるのだけど。どうしてご飯にそんなに感動していたのか、とかも。

モンローが死んだ日 (新潮文庫)

モンローが死んだ日 (新潮文庫)

 

 

網内人/陳浩基

主人公のアイは、インターネット上の不審な書き込みが妹の死に関係しているようだと知り、その方面に詳しい探偵アニエに調査を依頼する。

アニエ、ITに詳しいだけかと思いきや、メンタリスト的な面もあって強すぎる。そしてこれだけ色々やって、いつ寝てたんだ。

著者は台湾の人?で、この話の舞台は香港なのだけど、ちょいちょい日本が出てくるのは意外だった。日本の小説ってあの辺りで読まれてるんだなあ。

 

ここに書かれているような、特定の人に偽のサイトを見せたり、盗撮をしたりということは、知識のある人がやればどれも実際に可能なのだと思うけど、もし悪意を持った人にそういうことをされたらと思うと少し怖くなる。

と言っても、そういう事件が実際には殆どないということは、何の痕跡も残さずにうまくやるのは相当に難しいわけで、そこまでのコストをかける価値がない一般人は心配しなくてもいいのだろうけど。

網内人 (文春e-book)

網内人 (文春e-book)

 

 

アグルーカの行方/角幡唯介

1845年、フランクリン隊というイギリスの探検隊が、アジアに抜ける航路を求めて北極に向かったが、129人の隊員は散り散りになり、結果的に全員がその地で命を落とした。

著者の角幡さんは、フランクリン隊が通ったとされるルートをたどることを目的として、北極の冒険家である荻田さんと共に北極の地に降り立った。

 

北極の氷の上を歩くのがどんな感じとか、不毛地帯がどんな風景とか、どの辺りを通っているとか、うまくイメージできないのがもどかしい。GoogleEarthで書かれている辺りを検索しながら読むともっと面白かったかもしれない。

 

零下40度にもなるような場所を、重い荷物を持って毎日歩いていると、一日5000カロリーも摂っていても常に飢えを感じて、脂がギトギトの食べ物が世界で一番おいしいものを食べていると思うほどおいしく感じるらしい。経験してみたいようなしたくないような。釣って食べたトラウトがすごくおいしかったとか、何かの鳥の卵が変わった味だったとか、ちょっとうらやましい。

食事がおいしいというのは多分全体のほんの何割かの良いことで、飢餓感は相当辛いらしいし、何十日もかけて北極を歩くだなんて、過酷すぎて大半の人は耐えられないだろう。だけどそういう体験に対して、大変さよりも充実感の方が上回る人達が一定数いるらしい。仕事が大変な時、嫌だ嫌だと思っていても、退屈な時に思い出すとあの時は充実していたなと思うこともあるので、分からなくもないけども。

 

私もパーキンソン病患者です/柳博雄

著者の柳さんは、退職後に大学の非常勤講師として働いていたが、ある日歩けなくなり、パーキンソン病と診断された。

人が思い通りに体を動かすためには、体を動かす方向に作用するドーパミンと、動きを抑制する方向に作用するアセチルコリンという神経伝達物質が必要なのだけど、パーキンソン病ドーパミンの異常が起こることが原因だそうな。

また、通常は数年かけて症状が進行するのだけど、柳さんのように、最近歩きづらいなど、おかしいと思い始めてから歩けなくなるまでの期間が短いのはかなり珍しい例らしい。

 

急に難病になったらと思うと怖い。この方は奥さんや友人が色々助けてくれたからまだ良かったものの、1人だったらどうなってしまうのだろう。

それにしてもこの方、美人で性格が良さそうだと思い込んでいた看護婦さんが患者に悪態をついているのを聞いて、「こんな美人が」と驚いたと書いたり、最後に奥さんへの感謝の言葉が書いてあるのだけど、「過労で倒れた」で締めくくっていたりと、個人的にはちょいちょい疑問符が浮かんでしまった。

私もパーキンソン病患者です。

私もパーキンソン病患者です。

  • 作者:柳 博雄
  • 発売日: 2013/12/12
  • メディア: 単行本
 

 

その悩み、哲学者がすでに答えを出しています/小林昌平

私自身は今かなり平和で、これと言って悩みがないのだけど、あえて言うならば「やりたいことがない、楽しいことがない」。

まさにこの通りの項目があり、道元の答えが書かれていた。その答えとは、「日々の雑事を集中して丁寧に行うことで、生きる喜びを感じる」だそうな。

確かに、そういうことで良い気分になるのは分かるし、余裕があるからこそできるので幸せだとは思うけど、もうちょっと気分が高揚することがしたいんだよなあ。

 

どちらかと言えば、「自分を他人と比べて落ち込んでしまう」に対するミハイ・チクセントミハイの答えの方が参考になった。

優しすぎず難しすぎない、自分の能力でできるぎりぎりの作業に没頭する、いわゆるフロー体験を経験すると、肯定感や有能感で満たされる。

肯定感は本来そういったもので実感すべきなのに、他人のステータスと比べることで手軽に肯定感を得ようとしてしまうのだと。

確かに休日に、特別好きなことでなくても何かしら集中できることをやると充実感がある。

特にやりたいことがないので、その内容は仕事そのものだったり、仕事に関係することだったりするのがいまいちだけど。

何もせずに過ごして、つまらなかったと思うよりはいいか。

 

 

サル化する世界/内田樹

タイトルの「サル」とは何のことかというと、朝三暮四のサルのこと。ある人が、飼っていた猿に朝4つ、夕方4つの餌をあげていたのだけど、餌代を節約しなければならなくなった。そこで猿たちに、今後は餌を朝3つ、夕方4つにすると言ったら猿が怒ったので、朝4つ、夕方3つにしたら納得してもらえたという話。猿にこの話をしたのが朝だったという前提がないと意味がよく分からない気がするけど、つまり「サル化する世界」とは、この猿のように今さえよければいいと考える人が増えたんじゃないかということ。

この説話ができた頃は、文字が発明されたことにより、時間の概念を意識できる人とできない人が混在していたからこういった説話ができた、という話が面白かった。言葉を口伝で伝えようとするとシーケンシャルアクセスになりがちだけど、文字であれば過去の情報と現在の情報にランダムアクセスできるので、今じゃないこともリアリティを感じられるようになる。

 

それから、日本語の勉強よりも、日常会話レベルでいいから英語を覚えたほうが良いという風潮が、植民地の言語教育のようだという話について。母語をきちんとやらないことによって、難しいことが考えられなくなるから、植民地を支配するのにそういう政策がとられたということなのだけど、日本語をもっときちんとやった方が良いとは思う。仕事をしていて、ちょっと難しい文章を書いてもらうと、伝わらない文章を書く人が沢山いる。私も苦労した。ただ、日本語よりも英語だという話を、植民地化の意図を持って言っている人はそんなにいないのでは、とは思う。意識していないことが問題なのかもしれないけど。

サル化する世界

サル化する世界

  • 作者:樹, 内田
  • 発売日: 2020/02/27
  • メディア: 単行本