ファミリー・シークレット/柳美里

作家の柳美里さんが、息子さんにしてしまうこと、境遇の似た女性へのインタビュー、自身が受けた虐待について書いた本。

 

親子のやり取り

出だしは、柳美里さんと息子さんとのやり取りから始まる。

息子さんの言動が明らかに異常なのに、まず最初にそこを心配しないことが恐ろしい。

日常的に繰り広げられていると思われる親子の会話、と言うか親から子への罵声がつらい。

相手を思い切り罵ってやりたいと思う気持ち、それをやってしまった後の罪悪感、そんなことはしたくないのに毎回同じパターンにはまってしまう無力感。

 

ある虐待母

何故か突然、よく似た境遇の母親に会いに行き、話を聞いている。

この人に関して一番印象に残っている話は・・・

あることをきっかけに、実家に死ね等と恨みごとを書いた手紙を何度か送ったら、父親から電話がかかってきたそうな。

「今すぐ来い」と言ったら、来たのは母親だった。しかも結婚後初めて来たって。そんなんありかと思うけど、そういう家なんだろう。

ここで、「私が子供にどんなことをしたか教えてやる」と、子供にした虐待の内容を言いながら母親を殴りまくったという3行くらいで何だか泣きそうになってしまった。

3行ではさすがに泣かないけど、もっと事細かに当時の心境など書かれていたら多分泣いていた。

自分にここまでの経験はないけど、してもらいたいと思っていたことをしてもらえなくて怒ったり悲しんだりしたことを思い出す。

 

柳美里さんのカウンセリングと虐待の経験

柳美里さんが、カウンセリングを受けるまで親からされたことを虐待だと認識しておらず、カウンセラーの長谷川さんに何度も「私は虐待を受けたんですか?」と聞いていたのが印象的だった。

 虐待の被害者が、自分が虐待を受けていると気付かないという話はよく聞くけれど、もう親元を離れて何年も経っているし、真冬に裸で外に放り出されるだとか凄まじいことをされているし、カウンセリングを受けた当時40歳を超えていたので、さすがにあれはおかしかったと分かっているものじゃないかと思ったので。

けれど、当事者は分からないものなんだな。自分の身に起こったことだったらと思うと、そんな気もする。

 

そんな感じで柳美里さんは凄まじい生い立ちだと思ったのだけど、このカウンセリングをきっかけとしてついに何年もまともに話をしていないと思われる父親と対面で話すことになり、真実は分からなくなる。

柳美里さんの言うことと彼女の父親の言うことが全く合わない。

物事の受け取り方は人それぞれで、人間の記憶というものはいかに曖昧か。

私も人を恨むことはあるけれど、こちらの一方的な思い込みかもしれない。と思うと、人を恨んでも本当に何もいいことはないなあ。

 

この方の名前は以前から知っていたけど、今回初めて本を読んだ。

こんな過酷な経験をしてきた方だったとは。

他の作品は全てフィクションだと思うけど、経験をもとにした内容が少し形を変えて散りばめられているらしい。

(多分作家さんは、多かれ少なかれ誰でもそうだと思うけど。)

機会があったら読んでみるかも。

 

ファミリー・シークレット (講談社文庫)

ファミリー・シークレット (講談社文庫)