田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」/渡辺格

著者の渡辺さんはいわゆる田舎で天然酵母のパンを作っている。渡辺さんがパン作りを始めてから、なぜ「田舎で」「天然酵母の」パンを作るに至ったのかを、マルクス資本論に絡めながら説明したのが本書。

パンは好きだけど天然酵母イーストはどう違うのか知らなかったし、ついでに資本論にも興味があったので、面白かった。

 

パンを作る時によく使われるイーストとは、自然界のあらゆるところに生息している酵母の中から、パンを作るのに向いている酵母だけを抽出して人工的に増やしたものらしい。

一方天然酵母は色々な菌が混ざっているので、ちょっとした温度の変化などでパンが膨らまなくなってしまったりと、管理が難しい。世の中に出回っている多くのパンは、効率よくパンを作るためにイーストを使っている。天然酵母の良い所は、色々な菌が働くことで味わい深いパンができることなのだそうな。

 

渡辺さんがなぜ天然酵母でパンを作ろうと思ったのかというと、一つは、イーストの作り方について、安全に不安があったから。もう一つは、イーストを使えば誰でも簡単にパンを作ることができるけれど、誰でもできる仕事は替えがきくので、労働者は職を失わないために、労働環境が悪くても耐えるしかなくなる。そうではなくて、きちんとしたパンを作る技術を身に着け、労働力を買い叩かれることがない働き方を目指したから。

私も一応手に職がある系の仕事をしているけど労働者側だし、周りで切り捨てられる人を沢山見ている。選ばれる人でなくなったら困るし、できればある程度仕事を選べる立場でいたいと思う。

 

渡辺さんは資本主義のシステムから抜け出したくて、会社を辞めパン屋を始めた。私も、この世の中のシステムからちょっと外れて生きられたらいいなあとは思っているけれど、そう簡単にはいかないだろうなあ。

利潤を出そうとするから搾取が生まれる。利潤を出さなくても、生きていくのに必要なリターンだけ得てうまく日々を回していければいいのだけど。ということをひとまず頭の片隅に置いておこう。

 

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」