奈落/古市憲寿
歌手として活躍していた香織は、ステージから転落し、殆ど体を動かすことも、喋ることもできなくなった。それが多分20代前半のことで、この小説の中では、香織が40代になるまでの出来事が書かれている。
本を読むと大抵自分だったらどうするかと考えるのだけど、自分の意志では何もできないし、他人に意志を伝えて何かをしてもらうこともできないので、選択肢がない。更に、家族が自分の意に沿わないことばかりする。元々反りの合わなかった母親や姉はまだしも、理解者だったはずの父親までもが酷い。タイトルの通り奈落だ。
狂わずにいられたのは家族への怒りのためだと香織は言っているけれど、狂ってしまった方が楽かもしれない。でも、ある日症状が改善するかもしれないと思わずにいられない。最後まで。