サル化する世界/内田樹

タイトルの「サル」とは何のことかというと、朝三暮四のサルのこと。ある人が、飼っていた猿に朝4つ、夕方4つの餌をあげていたのだけど、餌代を節約しなければならなくなった。そこで猿たちに、今後は餌を朝3つ、夕方4つにすると言ったら猿が怒ったので、朝4つ、夕方3つにしたら納得してもらえたという話。猿にこの話をしたのが朝だったという前提がないと意味がよく分からない気がするけど、つまり「サル化する世界」とは、この猿のように今さえよければいいと考える人が増えたんじゃないかということ。

この説話ができた頃は、文字が発明されたことにより、時間の概念を意識できる人とできない人が混在していたからこういった説話ができた、という話が面白かった。言葉を口伝で伝えようとするとシーケンシャルアクセスになりがちだけど、文字であれば過去の情報と現在の情報にランダムアクセスできるので、今じゃないこともリアリティを感じられるようになる。

 

それから、日本語の勉強よりも、日常会話レベルでいいから英語を覚えたほうが良いという風潮が、植民地の言語教育のようだという話について。母語をきちんとやらないことによって、難しいことが考えられなくなるから、植民地を支配するのにそういう政策がとられたということなのだけど、日本語をもっときちんとやった方が良いとは思う。仕事をしていて、ちょっと難しい文章を書いてもらうと、伝わらない文章を書く人が沢山いる。私も苦労した。ただ、日本語よりも英語だという話を、植民地化の意図を持って言っている人はそんなにいないのでは、とは思う。意識していないことが問題なのかもしれないけど。

サル化する世界

サル化する世界

  • 作者:樹, 内田
  • 発売日: 2020/02/27
  • メディア: 単行本