大泥棒/清永賢二
泥棒のプロが書いた日記を、犯罪行動生態学の専門家である著者、犯罪予防論の専門家、(日記を書いたのとは別の)泥棒のプロがチームを組んで読み解き、犯罪者の視点などを述べたのがこの本。
ちなみにこの本では泥棒のプロのことを、そこら辺にいる泥棒と区別して「賊」と呼んでいる。
解読に加わった泥棒のプロの人は、小さい頃に父親が戦争で亡くなり、義父からは暴行され、ご飯もろくに食べさせてもらえないので、12歳の時に家を飛び出したそうだ。その後泥棒の師匠(日本人ではなかったらしい)に出合って色々教えてもらい、プロになっていったらしい。
そんな生い立ちを聞くと、そりゃあもう生きていくためには、泥棒でも何でもするしかないよなあと思ってしまう。
この人は、殺しは絶対にしない方針だと言っている。もちろんすべての泥棒がそんな心がけをしているわけではないのだけど、それでも基本的には泥棒側も怯えているので、もし鉢合わせてしまったら、向かっていくのではなく気付かないふりをするとか、逃げ道を用意した方が良いらしい。
そうなのか。鉢合わせてしまったらこちらも殺す気で立ち向かわないといけないかなあなんて思ったりもしたのだけど。
それから、こんなところから入るの?と思うような所からも入られるので(なんだかこう書くとゴキブリみたいだ)、素人が注意するにも限界がある気はするけど、窓を開けっぱなしにするのはやっぱり論外だと。
まずいかなと思いつつ夏場は結構開けっ放しにしていたので、ちょっと怖くなった。
死に山/ドニー・アイカー
50年ほど前に、ロシアの雪山で9人の学生が遭難し全員が亡くなったが、原因が不明なままとなっていた。
著者はアメリカ人のジャーナリストでこの件には何の関わりもないが、原因を探ろうと関係者にインタビューをしたり、彼らが遭難した場所に行ってみるなどする。そしてある研究機関の協力により、原因が明らかになる。
その原因というのがあまりに特殊すぎて、不幸な事故だとしか言いようがない。亡くなった学生たちの親や兄弟は、原因が分からないまま既に亡くなってしまっている人が沢山いるというのに、こんなに後になって原因が分かるとは・・・。
死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相
- 作者: ドニー・アイカー,安原和見
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2018/08/25
- メディア: 単行本
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眠れ、悪しき子よ(上下)/丸山健二
会社を辞め、田舎に移り住んだ55歳のオッサン(失礼)の、テンション上がったり下がったりする日々を綴った小説。
会社勤めの退屈な日々から一転、田舎に移り住んだ途端に、自身の出生の秘密が分かったり、親が死んだり兄弟が死んだり殺人者に出会ったりと、波乱万丈な日々が訪れる。
常時ぐだぐだと、自分を持ち上げたりけなしたりする言葉を吐いている。でもまあそういうの、分かるよ・・・という気になって、主人公の「私」に愛着がわいてくる。
イキルは何者なのか、「私」はどうなるのか(この話の終着点は何なのか)見届けたく読み進めたけど、あまり想像から外れない終わり方だった。
トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか
2009年の7月、北海道のトムラウシ山を登るツアーが行われたが、ガイドを含む18名中8名がなくなった。原因は低体温症だったそうだ。
自分が山に登る予定はないし、身の回りで山に登る人はいないけれど、何となく興味を持ったので読んでみた。
人間の深部体温*1は36度に保たれているが、それが35度以下になると低体温症となる。
低体温症になると、体が思うように動かなくなったり、意識がもうろうとしてきたりする。そして何もしなければ大体15分おきに1度ずつ体温が下がり続け、2時間程度で死に至る。
トムラウシのツアーでは、途中で台風に近い状態の風雨に見舞われたことが低体温症を招いた直接の原因だけれど、3人いたガイドは誰もトムラウシ山に上ったことがなかったこと、低体温症の知識も殆どなかったこと、ガイド同士の連携が取れていなかったこと、またそれらによって、天気が悪くなることが予想されていたにもかかわらず計画を強行してしまったことなどが根本的な原因として挙げられている。
だけど、後に生き残った人に対して行われたインタビューではあまりガイドの問題を責める人はなく、その後も同じツアー会社のツアーを利用しているという人もいて少し驚いた。
自分の命は自分で守るしかないということか。
それから、ツアーの参加者が皆高齢な方ばかりなのも驚いた。私はとてもじゃないが、山小屋に何泊もしながら山を歩くツアーに参加できる気がしないのだけど。
- 作者: 羽根田治,飯田肇,金田正樹,山本正嘉
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2010/07/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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*1:わきの下などで測る体温のことではなく、体の中心部または脳に近い所で測った体温のこと
放蕩記/村山由佳
村山さんの半自伝だそうで。主人公の夏帆が村山さんということだね。
夏帆は母親と気が合わず子供の頃に苦しんだが、大人になった今でもうまく付き合えない。そんな母親の痴呆が始まって・・・というお話。
正直、母親がものすごく酷いとまでは思わなかったのだけど、こうして他人事のように本で読むのと実際に相対した子供の立場とでは、感じ方が違うのだろう。
それよりも家族関係が特殊で驚いた。複雑な家だなあ。
夏帆の行動は私の人生では考えられないようなことがいくつかあって、色々と特殊な経験をしていないと小説なんて書けないものなのかなと思った。
この本、読むかやめるか結構迷った。気が滅入るような話だと嫌だなと思ったので。読んでみたらどちらかというと温かい気持ちになる話だった。これが村山さんの力ということかもしれない。
日本人の値段/谷崎光
日本のもの作りが落ちぶれつつあるような話はよく聞くし、電気屋さんなどに行くと確かにそう感じる。
中国や韓国のものも日本の技術者の流出で少しずつ良くなってはいるのかもしれない。
でも日本から中国に出ていった技術者の方々曰く、一部の技術だけ入手してもきちんとしたものが作れるようになるわけではなく、材料なんかも日本と比べると全然駄目なんだそうな。
それだったら、日本のいいところを伸ばしていけたらいいのにと思うけど、できる技術者の方々は、段々と管理などに回されて物を作る仕事をやらせてもらえなくなり、面白くないから中国に行ってしまうのだと。
どこでも同じなんだなあ。
桶川ストーカー殺人事件ー遺言/清水潔
「殺人犯はそこにいる」が面白かったので、同じく清水さんが書かれたこちらも読んでみた。面白かった。記者さんだけあって、文章が上手いということもこの本の面白さの重要な要素になっていると思う。
小松和人はただの悪い奴ではなくて、ちょっと精神を病んでいるか何かの障害を抱えていたのかもしれないと思った。清水さんと直接話をしてほしかったなあ。