日本奥地紀行/イザベラ・バード

 明治維新の数年後、イザベラ・バードさんが一人の通訳を連れて日本の奥地を旅した記録。

イザベラさんは旅をした当時多分それほど若くないだろうし、言葉も通じないし、よくもまあ一人で何日も旅をしようという気になったなと思う。どこも観光地ではないから快適に過ごせるような場所ではないし、長距離を移動するのだって大変なのに。そんなことは二の次だと思えるくらい好奇心が旺盛ということか。私なら耐えられない。

日本人について、未開の人と書いてあったり、髪型や服装などについてとても酷いと書いてあったり、時々かなり辛辣な言いようで笑ってしまう。

どこに行っても、日本人が大量に押し寄せてきては、屋根を上ったりしてイザベラさんが泊まっている部屋を覗いてくると書いてあり、まあ未開人と言われても仕方がないのだろうけど。

裸で過ごしている人がいると書いてあったけど、裸とは本当に裸なんだろうなあ。

けれど、日本人はどこに行っても皆親切で礼儀正しいとも書いてある。どうしてだろう。不思議。

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

 

 

心はあなたのもとに/村上龍

 妻子持ちの投資家西崎と元風俗嬢の加奈子。加奈子は1型の糖尿病で、加奈子が亡くなるところから話が始まり、西崎は加奈子のメールを読み返しながら、加奈子との日々を追想する。

村上龍さんは有名な作家さんだけど、私はこの方の作品を今回初めて読んだ。

 

西崎と加奈子がお互いを大切に思っているのは本当だろうし、それは美しい話だ。でも西崎には妻子があり、そのことと加奈子の間で悩んだりはしないし、それどころか加奈子と付き合いながら頻繁に他の女性達と遊んでいる。

たまに罪悪感がどうのと言ってはいるけれど、人には大切なものが複数あって、どれか一つに付きっきりになることはできないと西崎は度々言っている。だからこの人の中ではそういうのはアリなんだろう。

そしてこの人、相手の言動から心理分析をして、どう相手に接したらいいかをものすごく考える。そりゃあ仕事はできるし、女にもモテますわ。

こう書くと西崎は悪い奴のようだが私は嫌な奴だと思ったわけではなく、ちょっと常人じゃないなと思った。こんなスーパーマンみたいな人そうそうお目にかかれないよ。

 

糖尿病の型の違いや症状など、ぼんやりとしか知らなかった。突然昏倒することがあるだなんて恐ろしい。加奈子は、誰もいない部屋で一人意識が薄れていったのだろうと考えると気の毒だ。

心はあなたのもとに

心はあなたのもとに

 

 

謝るなら、いつでもおいで/川名壮志

 何年か前に、小学校6年生の女の子が同級生の女の子を殺した事件があった。被害者の女の子の父親は毎日新聞の記者で、その部下だった川名さんがこの本の著者である。

 

当事者間で、些細な喧嘩のようなものがあったという話は事件当時から挙がっていたけれど、親も弁護士も、大人たちはみんな理由がよく分からなかった。いくら何でもそんな理由で、友達としてそれまで付き合ってきた相手を殺すだろうか?

だけどそれが、実際に殺害の動機だったらしいということは、被害者の女の子のお兄さんの話を聞いてやっと腑に落ちた、ということだと思う。

当時中学生だったお兄さんの話は誰も聞かなかったので、彼はずっと一人で抱えていて、この本のために川名さんが取材した時には高校を卒業していた。

親たちは事件をずっと引きずっているけれど、お兄さんは殆ど乗り越えている。きっと最初から事情を理解していたからだろう。

お兄さん曰く、加害者の女の子は、集団にうまく入れないタイプの子で、ちょっとやりすぎてしまったのだろうということだった。

そういう人は、生きていくのが大変だろうなあ・・・。

 

加害者の女の子は当時11歳なので、少年法が適用されて犯罪者とは扱われない。どんな罪を犯そうとも、国が再教育すべき被害者として扱われるのだそうだ。

この本のタイトルはお兄さんの言葉。今はもう大人になり、社会に復帰しているはずの加害者の女の子は、謝りに行ったのだろうか。再教育は成功したのだろうか。

謝るなら、いつでもおいで

謝るなら、いつでもおいで

 

 

悲素/帚木蓬生

和歌山のカレー事件を元にした小説で、大学教授である主人公が、和歌山県警からの依頼で被害者たちを診察し、砒素中毒の診断をしていく。

カレー事件の方ばかり印象に残っていて殆ど忘れていたのだけど、そう言えば犯人と言われたあの人は、カレー事件より以前から 周囲の人間に砒素を盛り、多額の保険金を得ていたという話があった。一方カレー事件については動機がはっきりしない。

この点について最後に主人公が、13年にもわたって砒素でおいしい思いをしてきた犯人は、砒素を盛るのが快感でやめられない状態になっていたのではないかと言っている。

この人は確か死刑が確定していたと思うけど、今でもカレー事件の犯行は否定しているのではなかったかな。それに他にもこの人が犯人ではないという話を聞いたことがある。真実は何なのだろう。

悲素

悲素

 

 

大泥棒/清永賢二

 泥棒のプロが書いた日記を、犯罪行動生態学の専門家である著者、犯罪予防論の専門家、(日記を書いたのとは別の)泥棒のプロがチームを組んで読み解き、犯罪者の視点などを述べたのがこの本。

ちなみにこの本では泥棒のプロのことを、そこら辺にいる泥棒と区別して「賊」と呼んでいる。

 

解読に加わった泥棒のプロの人は、小さい頃に父親が戦争で亡くなり、義父からは暴行され、ご飯もろくに食べさせてもらえないので、12歳の時に家を飛び出したそうだ。その後泥棒の師匠(日本人ではなかったらしい)に出合って色々教えてもらい、プロになっていったらしい。

そんな生い立ちを聞くと、そりゃあもう生きていくためには、泥棒でも何でもするしかないよなあと思ってしまう。

 

この人は、殺しは絶対にしない方針だと言っている。もちろんすべての泥棒がそんな心がけをしているわけではないのだけど、それでも基本的には泥棒側も怯えているので、もし鉢合わせてしまったら、向かっていくのではなく気付かないふりをするとか、逃げ道を用意した方が良いらしい。

そうなのか。鉢合わせてしまったらこちらも殺す気で立ち向かわないといけないかなあなんて思ったりもしたのだけど。

それから、こんなところから入るの?と思うような所からも入られるので(なんだかこう書くとゴキブリみたいだ)、素人が注意するにも限界がある気はするけど、窓を開けっぱなしにするのはやっぱり論外だと。

まずいかなと思いつつ夏場は結構開けっ放しにしていたので、ちょっと怖くなった。

大泥棒 ―「忍びの弥三郎日記」に賊たちの技と人生を読む

大泥棒 ―「忍びの弥三郎日記」に賊たちの技と人生を読む

 

 

死に山/ドニー・アイカー

50年ほど前に、ロシアの雪山で9人の学生が遭難し全員が亡くなったが、原因が不明なままとなっていた。

著者はアメリカ人のジャーナリストでこの件には何の関わりもないが、原因を探ろうと関係者にインタビューをしたり、彼らが遭難した場所に行ってみるなどする。そしてある研究機関の協力により、原因が明らかになる。

 

その原因というのがあまりに特殊すぎて、不幸な事故だとしか言いようがない。亡くなった学生たちの親や兄弟は、原因が分からないまま既に亡くなってしまっている人が沢山いるというのに、こんなに後になって原因が分かるとは・・・。

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

 

 

眠れ、悪しき子よ(上下)/丸山健二

 会社を辞め、田舎に移り住んだ55歳のオッサン(失礼)の、テンション上がったり下がったりする日々を綴った小説。

会社勤めの退屈な日々から一転、田舎に移り住んだ途端に、自身の出生の秘密が分かったり、親が死んだり兄弟が死んだり殺人者に出会ったりと、波乱万丈な日々が訪れる。

常時ぐだぐだと、自分を持ち上げたりけなしたりする言葉を吐いている。でもまあそういうの、分かるよ・・・という気になって、主人公の「私」に愛着がわいてくる。

イキルは何者なのか、「私」はどうなるのか(この話の終着点は何なのか)見届けたく読み進めたけど、あまり想像から外れない終わり方だった。

 

眠れ、悪しき子よ 上

眠れ、悪しき子よ 上

 

 

眠れ、悪しき子よ 下

眠れ、悪しき子よ 下