笹の舟で海をわたる/角田光代

 主人公の左織は現在60代で、幼い頃、戦争のため親元を離れて疎開した経験を持つ。そこでの出来事は、いじめがあったり、食べ物が満足に食べられなかったりと、つらい記憶として残っている。

20代の頃、左織には全く記憶がないが、疎開先で左織によくしてもらったという風美子に声をかけられる。やがて風美子は左織の義理の妹となり、お互い夫を亡くした現在でも付き合いがあるのだが、左織は風美子の思う通りに生かされてきたように感じて、内心恐ろしく思っている。

 

風美子は人を操作する能力に長けた人間で、実は左織が思っている通り、周りの人間をいいように操っているのではないかと、はらはらしながら読んだ。

実際、人を操るのが上手い人間はいるし、それが意図的でなかったとしても、他人を巻き込むタイプの人や、巻き込まれやすいタイプの人はいると思うので、上に書いたようなことがあったともなかったとも言えるのだろう。

 

幼い頃のほんの短い期間の出来事によって、大人になっても、そのずっと後の人生まで捕らわれ続けるというのは、つらいものだなと思う。

私は左織のような特別つらい出来事は経験していないので、そういうことはないけれど、それでももう少し若い頃は、子供の頃のいろんな出来事を引きずっていて嫌だったな。

笹の舟で海をわたる

笹の舟で海をわたる

 

 

食べるたびに、哀しくって・・・/林真理子

 林さんのお祖母さんの家はお菓子屋さんだったそうで、余ったあんパンやジャムパンを、翌朝炊き上がったご飯の上にしばらく乗せてから食べるとあつあつでおいしかった、という話がすごくおいしそうだった。ご飯の上にパンを乗せるって大分斬新だけど、当時は電子レンジないから思い付きでやってみたんだろうか。

私の思い出の食べ物って何だろう。何でも好きだったからか、ぱっと思いつかないなあ。どちらかと言えば、自分で選んで食べるようになった大人になってからの方が、食べ物に対するこだわりが表れているかもしれない。

タイトルは「哀しくって」と書いてあるけど、哀しい話は特になく、食べ物の話は読んでいて楽しい。

食べるたびに、哀しくって… (角川文庫)

食べるたびに、哀しくって… (角川文庫)

 

 

アマテラスの暗号/伊勢谷武

 日本人の祖先は、イスラエルの辺りから来た人達かもしれない。私は全く聞いたことがなかったのだけど、事実に基づいた話らしい。

それにしても、色々な神社があるんだなあ。少し行ってみたくなった。

アマテラスの暗号 〈歴史ミステリー小説〉
 

 

人生の法則/岡田斗司夫

 著者の岡田さんによると、人は欲求のタイプにより4種類に分けられるそうだ。その4タイプとは注目型、指令型、理想型、法則型で、完全に4タイプにきっちり決まるかというと、指令型寄りの注目型だったり、その時の調子によって揺らぐこともある。人をタイプ分けする意味は、他人と完全には分かり合えないことを理解すること、そして分かり合えないなりに相手の気持ちを想像しやすくすること。

自分がどのタイプかを判定するテストがあり、やってみたら私は法則型だった。(ちなみにテストをやる前の予想では、少なくとも外向型の注目、指令はありえない、理想か法則のどちらか、どちらかと言えば法則かなと思っていた。)

 

人間は情報を受け取ることで初めて反応し、情報を発信する。その反応が人間の意識で、人間の意識の集合体が文明だ。人は情報を受け取ってパスすることに幸せを感じるようにできており、4タイプは受け取ってパスする時の偏り方のタイプなんだ、と後ろの方に書いてあったのだけど、いまいちピンとこないなあというのが正直な感想だ。

そのことを頭の片隅に置いて過ごしてみたら、そう感じることがあるかもしれない。

 

ニートが見た松戸裁判傍聴日記/市川春希

 著者は仕事を辞めてから転職するまでの間に、ほぼ毎日最寄りの裁判所に通い、裁判を傍聴し続けたそうだ。この本では、著者が傍聴した中で印象に残った裁判を6件紹介している。

ニュースにはならなくても、こんなにも色々な事件が起こっているのだなあ。面白そうなので、私も裁判を傍聴してみたくなった。平日しかやっていないので、なかなか難しいけども。

 

 

死体格差/西尾元

 解剖が必要とされるのは、穏やかな死を迎えられなかった人の遺体だ。著者の西尾さんが解剖してきた人達の約50%が独居者であり、約20%が生活保護受給者、約30%が精神疾患患者だそうだ。

日本では生活に困ったら生活保護を受ければよいという話を聞くことがあるけれど、生活に困らない程度の施しが受けられるはずなのに凍死する人がいるなどという話を聞くと、本当にまともに暮らせるのだろうかと心配になる。

そして、1人で暮らしていると、突然倒れた時に助かりにくいと考えると怖くなる。まあ、自分で選んでいることでもあるし、同居人がいても死ぬときは死ぬので、考えてもきりがないのだけど。

死体格差 解剖台の上の「声なき声」より

死体格差 解剖台の上の「声なき声」より

 

 

熊と踊れ/アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ

この小説は、スウェーデンで実際に起こった事件が元になっているそうだ。タイトルの「熊と踊れ」は、主人公のレオが、自分より強い相手に勝つ方法を父親から教わった時に、父親が言っていた言葉だ。この父親は暴力的な人間で、ある時妻を半殺しにしてしまったため、家族はバラバラになってしまった。その辺りは昔の話として語られており、この小説の現在の時間軸では、その後成長したレオが、二人の弟と幼馴染とで武器庫から武器を盗み出し、銀行強盗をする。レオはとても頭の切れる奴で、冷静に綿密な計画を立て、うまくメンバーをまとめ、強盗を繰り返す。

この小説が実話を元にしていて詳細が語られているということは、レオはミスをして捕まったということだ。せっかくうまくやってきたのに、嫌っている父親に関することでは、レオは筋の通らない行動をしてしまう。

 

レオの父親であるイヴァンは、この小説に書かれている内容だけ見ると、悪人というよりは、性格に難ありで不器用な人だという印象を持った。(妻の実家に放火したり、妻を半殺しにしたりする人は、関係者からしたら十分に悪だろうけど、悪意による行動というよりは、考え方に問題があるいうか。そういう人が厄介なことに変わりはないのだけど。)

レオとその弟達はこの暴力的な父親のことを嫌っているけれど、彼らも父親と同等、あるいはそれ以上の暴力を用いて、自分達の都合を通そうとした。銃を向けられた人たちの中には、ショックで寝込んでしまうなど、その後の人生が滅茶苦茶になってしまう人も多いのだそうだ。