農家はつらいよ/寺坂祐一
著者の寺坂さんは主にメロンの直販をしている農家で、現在の年商は1億円を超えているらしいのだけど、この本を読むと農家は本当に大変だなと思う。周囲の同調圧力が凄まじい。加えて、この方の家族にも問題があり・・・。
寺坂さんが大変な努力家で優秀だから、ここまで成功できたのだろう。頑張っているから助けてくれる人もいるし。
メロン畑に除草剤を撒かれたという話は、つい数年前に、私もネットのニュースで見た覚えがある。クラウドファンディングであっという間に損失を取り返して、スカッとした。
カウンセラーの方とは、ずっと電話で話をしていたようだけど、たった月1度(一時的に2度のこともあったけど)の電話で、ここまで他人の心に寄り添えるとは。さすがプロ。とは言え、全ての解決までに13年か。大変なことだ。
結構ページ数が多い本だけれど、面白かったので割とすぐに読んでしまった。
東電OL症候群/佐野眞一
今から20年くらい前に起こった、東京電力に勤めていた女性が殺害された事件に関するルポタージュ。
私は、事件当時は子供だったこともあって、この事件のことは記憶にない。割と最近になって、そういう本があるなということから知った。佐野さんの、この本より以前の作品である「東電OL殺人事件」の方は読んでいない。
調べてみると、他にも色々な人がこの事件に関するルポタージュや小説を書いていることから、当時は相当話題になったようだ。どんな内容が報道されていたのか分からないけれど、被害者の女性が、エリートともいえる身分でありながら売春を繰り返していたということで注目されたんだろうか。それだけでもちょっと驚くべきことかもしれないけれど、この本によると、毎晩4人のノルマを自らに課し、それを何年も続けていたとか、売春をしていたことを会社の人達も家族も知っていたなどと書かれていて、なるほど闇が深いなと思った。
そしてこの本のタイトルに書かれている症候群とは、殺害された女性に共感する同年代の女性が多数存在したことを指している。「東電OL殺人事件」の読者から、佐野さんに、私も同じだ、被害者の女性の気持ちが分かるといった内容の手紙が多数届き、被害者の女性が客引きをしていた場所にある地蔵に、お参りに行く人もいたらしい。
私が共感するかというと全くそんなことはなく、へえー、そんな不思議なことがあったんだなあと思う。多数とは言っても、同年代の女性に絞ってもそのうちのほんの一部なんだろうか。それとも私が少数派なのか。もしくは時代の違いなのか。
この事件のもう一つの問題は、容疑者とされたネパール人の男性が、一旦無罪とり、十分な証拠がないにもかかわらずその後有罪とされ、何年も国に帰れなくなってしまったこと。日本は検察に起訴されたら90%以上の確率で有罪になるそうで、そのために割と無茶が押し通されるという話は聞くけれど・・・。
その後無罪にはなったようだけど、言葉もよく分からない土地でこんな扱いをされた男性は気の毒としか言いようがない。
十一月に死んだ悪魔/愛川晶
記憶が完全に飛んでいるって怖いな。しかもその間に、思い出したくないようなことが起こっているなんて。
不気味な話なので、最後の最後に何が起こっていたのか分かり、助かりそうになった時はほっとしたけど・・・。もっと酷い目にあってもおかしくない流れだったと思うので、あれで済んで良かった。
心の中のお友達、私は経験したことがないけど、楽しそうでいいな。
第五番/久坂部羊
もう何年も前に読んだ「無痛」の続編。
「無痛」の内容は殆ど覚えていないけど、生きたまま心臓を取り出すシーンだけ覚えている。
ものすごく残虐な殺人を犯した人を、本人の意志ではないという理由で、普通の生活を送れるようにしてしまうのは大丈夫なんだろうか。責任があるとは思わないけど、同じようなことが起こる可能性はあると思うのだけど。
この小説の舞台は日本だけれど、もし実際に同じ事件が起こったら、今の日本の制度では数年で釈放されるんだろうか。
認知症鉄道事故裁判/高井隆一
著者である高井さんの父親は認知症になり、在宅介護で暮らしていたのだけど、家族が目を離したほんの短い間に外出してしまい、JRに轢かれて亡くなった。
すると事故から半年後に、突然JR東海から約700万円の請求書が届いた。
高井さんは、家族が迷惑をかけたことについて申し訳ないと思いつつも、JR側の不躾な態度や再発防止を考えようとしない様子に、JRにも非がないわけではないのにという気持ちが大きくなり、妥協をせずに裁判で戦い、勝訴した。
この本の最初の方のページに、東海近辺で起こった鉄道事故の損害額がいくつか挙げてあるのだけど、想像より金額が少ないなと思った。このくらいだったら、何年も裁判で戦うよりは、さっさと払って終わりにしてしまいたいと思うだろう。700万円となるとちょっとそうも言えないけど。
認知症の人を、家族が全く目を離さずに介護をするのは無理なので、家族の責任にするのは違うと思うけど、かと言って事故が起こる度に鉄道会社が損失を被るのも困るだろう。とにかく事故を起こさないように、線路に入れないようにするのがいいのかな。
さよなら、ニルヴァーナ/窪美澄
14才の時に子供を殺した神戸の少年Aを題材にした小説。
この小説の中で、少年Aが、一部の人達の間でアイドルのように扱われていることになっているのだけど、実際にそういったことがあると、聞いたことがあるようなないような。そんな感じで、半分くらいは実際にあったとされていることを元に書いてありそうな気がするのだけど、こういう小説って書いてもOKなものなんだなあ。遺族の気持ちを考慮すべきだとか、小説であれば言われないんだろうか。あの事件を題材にしていることは明らかなのに。私が遺族だったら、少年A自身が本を出すよりももっと嫌な気がするけどな。